ゆかれいまり。密かな関係の行先。

  • 頒布:2015/05/10 第十二回 博麗神社例大祭
  • 装丁:新書サイズ/112ページ
  • イベント会場価格:1000円
  • 装画:もちぬ(あけのからす
  • 書店委託:メロンブックス

outline

ある日、魔法使いとその周辺に起きた些細な変化。
魔理沙が魔法使いへの道を歩みだしたとも思えるその変化は異変ともいえない僅かな綻びであり、
かの大妖怪八雲紫の巡らせた策略の糸だった。
紫・霊夢・魔理沙の3人の思惑が交差する先に、彼女たちが選ぶ道とは。
東方鈴奈庵25話の設定を経て、3人の関係を模索するゆかれいまり小説。


prologue

 部屋の中は昼間だというのに、黒に満ちていた。

 窓掛けで外界からしっかり覆われた室内は、部屋の中心にある機材から放たれる薄ぼんやりとした光によって断続的に淡く照らされている。

 蛍のようなたどたどしい光を見つめながら、真剣な表情で霧雨魔理沙は椅子に座っていた。

 硝子の容器の中には数カ月前に入手した希少な砂と、魔理沙自身の魔力が注ぎ込まれている。これは時折行っている単純な実験の一つだった。

 霧雨魔理沙は魔法使いだ。——といってもちょっとした魔法が使えるだけの、ただの人間でもある。魔理沙が住む幻想郷には本物の魔法使いがいるのだ。

 先天的に種族として産まれた魔法使いである彼女たちと異なり、魔理沙は職業としての後天的な魔法使いだ。だから普段から訓練をしなければならないし、当然力も彼女たちとは比較にならない。だから、こうして毎日魔法を研鑽している。

 雑多とした部屋の中は、他の者から見ればただのごみ置場かもしれない。だが、魔理沙にとっては宝の山だ。自分自身でも何に使えばよいのか首を傾げるようなアイテムもあるにはあるが、かたっぱしから集めてきたマジックアイテムや魔導書の類が積み重なっている。もちろん、知人から借りたまま一切返していないものも多々あるのだが。

 今日も行っているこの行為は、些細なものだ。

 魔理沙は目の前をじっと見つめ、考えこむ。

 無理をいって香霖堂から入手した、星の砂という不思議な砂に魔力を注ぐ。ここ数日やっていることを単純にいえば、たったそれだけだった。

 話に聞くところによると、海の生物の殻で出来ているこの星形の砂は、今は外の世界では失われているものらしい。放置すればただの白い砂だと思われてごみ回収に出されてしまいそうな代物だ。

 でも、魔理沙はそういうものが好きだった。

 霧雨魔理沙は、主に星をイメージした魔法を使う。幻想郷での決闘方法として用いられるスペルカードルールにおいても、それは変わらない。光や熱を持った力を用いるのが得意なのもあるが、魔理沙がイメージしやすいのは『星』という力だ。

 きらきら。ぴかぴか。少女らしくてかわいいモチーフだと自分でも思う。流星を見て思いついたのがきっかけだが、星は格好のモチーフだ。夜空を飛び回る魔法使いは星空の下で一人不敵に笑うのだ。

「さて、と……やるか」

 普通ならば荒波に削られて丸くなるはずだが、星の砂はその名の通り星のようにとげとげとしている。

 表面積をとげで膨らました砂は、力を吸着するには格好の形だ。数日、調子のいい時を狙って魔力を注ぎ込んだ星の砂は、部屋の中で灯りとして用いることが出来そうなほど光ることもあった。

 大抵は死にそうな蛍みたいな瞬きではあるが。

「————、」

 瞳を閉じ、集中する。自分だけの呪文を唱え、意識を目の前の硝子の中にまっすぐ向ける。両手をそっとかざし、言葉を紡ぎはじめた。

 昨夜注いだ魔力はもう途切れかけている。本当の魔法使いなら、一回魔力を注げば当分は篝火代わりに使える灯りを保つ、と知り合いの魔法使いから聞いた時に悔しかったことを思い出す。それでも、以前よりは保つようになったのだ。

 始めた当初は光った瞬間に豆電球が切れたようにばちりと燃えて、砂ごと真っ黒になってしまっていたのだから、成長した……のだと思いたい。

 ひと通り呪文を構築し、魔力を放つ。

 すると明るさが集まり、大きく光が弾けた。