中3菫子。後ろめたい欲求。


outline

宇佐見菫子、中学3年生。彼女が高校生になる前に見つけてしまった、後ろめたい欲求。
それは、普段清廉潔白なはずの教師が見つめていた、奇妙な映像の正体を曝くことだった。
映像に映った2人の少女。彼女たちの存在と関係を見つめ、菫子は何を思うのか。


prologue

 『超能力』を知っているだろうか。

 超能力、または神通力と呼ばれるそれは、古代では神の力とも呼ばれた、人ならざる力だ。

 例えば、手を触れずに物を動かす、伏せたカードの文字をそのままで読み取る、心を読むなど、一般人には出来ない、読んで字のごとく人を超えた能力。

 歴史の中では本物・偽物が入り乱れ、時にそれはただの嘘つきであり、あるいは人の心を読むのに長けただけのただの一般人だったりもした。

 今だって、年始年末の番組改編期には『脅威! 本邦初公開、超能力者緊急来日!』の特番が組まれることもある。そこに出てくる超能力者は、大体は行方不明になった人間を探したり、しかめっ面でスプーンを曲げたりする。前者はともかく、ネットで見たスプーン曲げは完全に資源の無駄使いだ。

 もちろん、緊急来日したがる海外の人間以外にも、超能力者はいる。

 海外の例を見ず、この国にだって超能力者はたくさんいた、らしい。数十年前に起きた超能力ブームのときに、沢山の少年少女がテレビでその力を披露し、トリックを指摘され、消えていったそうだ。当然、私は動画サイトで見ただけで、リアルタイムで状況を見ていたわけではない。

 でも、想像するのは簡単だ。

 最初はちやほや持て囃し、ブームが去りそうになると「嘘を見破った」「インチキ金の亡者」と呼び、テレビの中から追い立てたに違いない。

 その後は、テレビで有名になってしまったがために、近所からも縁を切られ引っ越す羽目になったり、学校でいじめられたりしたのだろう。

 くだらない。

 馬鹿げてる。

 私はそんな風にはならない。なるもんか。

 そう、実は私は——本物の超能力者なのだ。

 実は、物心ついたときには誰もがその力を持っているのだと思っていた。当然、小さいころは力も弱く、周りからの関心が低かったことが幸いし、両親を含め、他の人間に能力を悟られることはなかった。

 だから決定的に、自分が超能力者だと自覚したのは比較的最近のことでもある。

 例えば。学校で人の話を聞いていると、その笑顔の裏の感情。つまり、真実の気持ちが見える。

 紙を裏返した状態で、テストの開始を待っているはずが、プリントに書いている問題が読める。

 目測を誤って、手が届かなかった品物を心のなかで呼ぶと、その物が近づいてくる。

 もちろん、自分の頭がおかしくなってしまったかとも思ったこともあった。たまたま、普通の友人が心の底で考えていることを指摘してしまった時に「気持ち悪い」と言われ、どうにかならないかと悩んだ時期だってある。

 しかし、これは本当に私の持つ力であり、事実なのだ。だから、私は、受け入れた。

 とかなんて横文字の呼び名を知ったのは、当然その後だ。ありがたいことに、今はネットで調べればどんなことだって出てくる。私は着実に超能力者として適切に育っていくことになった。

 最初に何をやったかは、今でも覚えている。今まで無意識にやっていたことを、順序立てて、意図的にやってみたのだ。

 手始めに、親におやつがあるか聞いてみてから、自分の部屋から冷蔵庫の中身を見たり。お年玉を渡した後に家族の通帳を部屋に呼び寄せたり。本当は、私をどう思っているのか親に聞いてみたり。

 そういう、実に悪趣味なことをした。

 ——結果は、とてもとても笑える結末だった。

 超能力は素晴らしいものだ。人類の進歩に必要なものだ。そうですか。そんなの知ったこっちゃない。

 上っ面を優しく撫でるような言葉も文字も、色々なことを試すうちにとうに飽きてしまった。

 こんな能力があっても、きっと幸せになんてなれない。そんなこと子供の私にだって簡単にわかってしまった。テレビに出て能力を披露したってきっと手に入れられるのは一時のお金とちやほやだけ。

 下手したら今となってはただの珍しい動物扱いかもしれない。そんなのはごめんだ。

 だから、私は好き勝手に生きることにした。